EbiMaru’s diary

ラマン分光とか機械学習とか研究している京大生のブログ

インターンで論文を出すことになった話

 M1の夏休みに某大企業の研究開発を担当している所(以下ONSHA)に3週間インターンに行った感想とかを書きます.

インターン前まで

 そもそもなんでONSHAに限らずインターンシップに参加しようとしたかというと,一応業界研究はしておきたかったし,まあ就活にも悪い影響は及ぼさないでしょと思ったからです.特に深い意味は考えていなかったですね.いやこのひと,普通にマ○ナビとかリ○ナビにいいように利用される資本家の犬でしかないやん...ちなみにですが,選考は1勝6敗でしたので,参加するとしたらONSHAしかありませんでした().
 正直ONSHAは一番選考が厳しそうだと思っていたので,通ったときから北斗の拳的世紀末を想像していました.というのもインターンは即戦力になるようなスキルをもっていないと通らないと思っており,ONSAHのインターンのテーマを見た時,自分の研究にもスキルにもドンピシャで合致するテーマはなく,「あ,ここには通らないな」と思いました.そこで,第1志望はせめて戦えそうな機械材料系のものにして,第2志望以下は機械学習系のものを選択しました.しかし,来たるべき7月,選考の結果は「第2志望:機械学習ヲ用ヒでーたノ解析ヲセヨ」でした.震えました.周りはどんな強者がいるのだろうと.自分は果たして,スキルをチョット盛った罪悪感と劣等感に耐えられるのかと.でも私の中のクズ要素は,この不安を見事に押しのけ,インターンの1週間前まで開発に使うと言われていたPyTorchを触らせず,PRMLも読めと言われていた論文も読ませなかったのです...!まあ最終的には簡単な回帰の実装をして,論文も読みましたが...あとパワハラにあった場合に備えて,レコードできるペン買いました.要りませんでしたが.

業務内容編

 私に与えられ課題は,まあ画像処理の一種で,業務自体はある意味で単調でした.論文を読む→git clone and 実装→モデルを学習→結果の吟味→議論の繰り返しです.僕が配属された部署は,「機械学習を用いて現場の課題解決」とか「機械学習で金儲け」ではなく専ら論文のための研究を行っていたようです.途中で気づいていましたが,「これは大学と大して変わらんな」と.企業研究という点ではONSHAはあまり適切ではなかったかもしれません.他のインターン生の話を聞くと確かに大学の研究と似てはいるが,大学よりも期日などをしっかり定め限りある時間を最大限に利用とすることを教えられる人が多かったらしく,一方僕は特に一日のノルマなどの定義もなかったのでのびのびと研究していました.まあ,業務中はほとんどTwitterできませんでしたが().同じチームの方々は,皆わからないことがあればフランクに教えてくれ,間違ったことをいえば特に嫌味な風でもなく指摘してくれました.
 さて,自分はどのように活躍したかというと,そんなには手出しできなかったですね.一応自分からアイデアをポンポン提案とかできればよかったのですが,言われた手法を実装することしかできなくてちょっと悔しかったですね.僕は実はNNのモジュールを触るのは今回が初めてでした.ML系の論文も初めて読みました.まあ,そんな素人同然...!な状況で,勝てるのは赤木しげるくらいなわけで.
 そういった初めての経験をしていくなかで,思ったのは少なくとも機械学習を生業とし,NN職人として生きることだけはやめようということです.レッドオーシャンすぎる.その上これは泥沼だと.落合陽一氏が言ってたのですが,「デジタルネイチャーの学生にわかって欲しいことはみんなが憧れていて練習したり努力すればやがてなれそうな気がする職業っていうのはレッドオーシャンだってことだよ.」というのが刺さります.まあ,もとよりその気もなかったのですが.しかし機械学習は今後も発展し,データ解析の点で新たな知見を私達に運んでくれるのだと信じています.だから,最先端を追うことはやめてはならないとも思いました.私達実験屋はフロンティアを開発してくれた勇気ある人たちの開拓してくれた土地を,ありがたく豊かにすることを考えるべきだと,改めて思いました.

社風編

 まあ,予想はしていましたが,職場はホワイトでした.残業はほぼ0.ある人は残業時間がマイナスになったと言っていました.育休・有給の類は簡単に取れ,「気分が乗らなかったら年休とる」とかも普通だったようです.いや大学かよ.それだけでなく,各人が大人の都合をわきまえ他人を最低限尊重し,無意味に他人を蹴落とすようなことのない職場でした.まあ,職場のシステム的に出世や権力といった概念がほとんど役に立たないところだったので当たり前といえば当たり前なのかもしれません.少し話は逸れますが,残業は悪ですね.労働者が好きでやっているならわかりますが,残業込みで働かないといけないのは監督者の無能と怠惰ですよ.21時まで残って家まで着いて色々済ませ,朝には眠気眼に発破をかけるとか,自分にできたものじゃないと思います.
 職場の人達はさっきも申したとおり,いい人たちでした.その上ドチャクソ頭がいいのです...!機械学習の研究をしていたわけですが,皆,機械学習系のトップカンファレンスに論文を通すことを目標に研究していたようです.物理・情報・統計・材料・化学・生物.これらをまんべんなく,しかし各々の知識が連携できるくらいには深く理解していたように感じました.よく「人はスペシャリストとジェネラリストどちらを目指すべきか」みたいな議論がありますが,その点で言えばONSHAの方々はジェネラリストに近かったと思います.でも,ある程度論文が書けたり,設計開発ができたりしなければジェネラルでも役にたたないのだと気付かされました.なんとしても,そこまでたどり着かなければ.
 ただ,ONSHAの社員の方に言われたことで「ここは大学と大して変わらない.研究はできても,開発には遠い分野の人が多い.研究ができるだけでは直接は金は生まれない.具体的には例えばうちに入った後に転職からの中途採用では不利になる可能性がある.しかも取り潰しかどうかはお上の判断が全て.経営が傾いたら真っ先に切られる存在.実際企業の基礎研究部門はバブルの頃に流行ってまだうちは生き残っているだけ.いわばバブルの化石」というのもありました.研究は道楽なのか.ONSHAレベルの所でもそのような声が聞こえるのは悲しいとは思いますが,それは一つの現実なんでしょう.企業人として生きるには,やはりマネジメント・ビジネス感覚は必須なのだと思い知らされました.好きなことで食っていくのは難しいが,得意なことで食っていくのは簡単だというのは真に感じます.
 それでも,ONSHAに惹かれるのは単純に職場の雰囲気とかだけではなく,人間的にな魅力の多い人がいるからです.まあサンプルはONSHAしかありませんが.ある人は,ONSHAの仕事以外に,ボランティアで障害者や外国の貧困層の支援活動を行っていました.自分が他人から攻撃されない領域で他人を叩いてヘイトを撒き散らしている間に,真に弱者の立場に立とうとして現に支援をしているひとがいる.この事実は辛いっすねー.自分が情けなく思えちゃいますよー.過去に拘泥するはいい加減やめたい.実際どうしようもないこともありますが.そうでない人も,大体Ph.D持ちで,なんというか人生を自分より10倍くらい経験してる感がありましたね.あ,あと30過ぎてる人はほとんど既婚者子持ちでした.

研究の結果

 まあまあうまく行きましたよ.オープンなデータセットを解析していて,もともとは別のタスクを行っていたのですが,分類問題にも応用したら元論文の精度89%だったのが,96%に向上しました.ワールドレコードが97%とかだったので,個人的にはかなり意義の高い研究だったのではないかと考えています.この成果でイコール・ コントリビューションで論文を出す話がまとまってきています.まあ,僕は言われたこと実装しただけですが(爆).最終的にどうなるかは神のみぞ知るです().

最後に

 実際の生産業務に関わりをもつひとたちに比べれば多少給料は安いものの,私のいたところは上記のようなホワイト度で,周りの人間も尊敬できる人が多かったと思うので,今回のインターンで行きたい会社の上位に食い込みましたね.しかし,ONSHAに限らず,閉鎖的な空間にのみ居ては,人間的にいずれ死んでいってしまうのではないかという危機感は覚えました.そのためだけに転職などをするというのはドMの所業だとは思いますが,これからの時代に評価されるキャリアとは何かを,学生のうちに考えておきたいものです.あとビジネス感覚身につけたいな.とにかく自分の見ている世界は狭いなと思いました.たくさん国際学会に行って,いろいろな人とおしゃべりしないとですね.
 ONSHAのインターンシップスキルアップにはなったし,すごい人もいるのだと感じれたから,その点は☆5つですね.ただ,就活自体にはそんなに経歴にプラスになるようなことはなかったと思うので,そこはもう腹をくくるしかない.人生経験としてはとても良かったですかね.アカデミックとしての成果も得られそうだし.まあ就活の参考にはあまりならない駄文だったかもしれませんが,少しでも情報を提供できたらいいですわ.

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インターン中の休日に訪れた伊勢神宮の内宮の入り口

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喫茶コンパルで初めて食べたモーニング